僕が住宅営業をしていた頃、お客様に契約いただく時点では、家の細部まで決まっていたわけではありませんでした。決まっていたのは、おおよその予算感や間取りです。サッシの種類も、インテリアの内容も、地盤調査を受けて必要になる工事も、契約後に詰めていきます。
まだ決まっていないことがある。それでも契約をいただくには、「この営業マンに任せても、変なことにはならない」と思ってもらう必要がありました。そこで僕が伝えてきたのが、「私にお任せください」という言葉です。
僕は「私にお任せください」という言葉を、18年間使ってきました。
これは、何でも保証するための言葉ではありません。お客様の代わりに専門家が判断し、この人のために進むと決める言葉です。高額な商品や、契約してから詳細を作るサービスほど、説明の量だけではなく、誰に任せるかが問われます。
選択肢を増やすと、「選ばない」が生まれる
商品に思い入れがあると、あれもこれも説明したくなります。どの商品にも良いところがあるから、全部を知ってもらった方が親切だと感じます。
こちらが扱う商品をすべて説明することよりも、お客様に一番合うものを示すことが必要です。複数の商品を同じ重さで並べて「どれを選びますか」と聞けば、お客様は専門家と同じように違いを比べ、自分で結論を出さなければなりません。
二つの選択肢を出したつもりでも、迷った人には「今は選ばない」という三つ目が生まれます。どちらがよいか分からなければ、いったん保留にするのは自然です。

提案する前に、まず好みや、やりたいこと、予算を聞きます。その答えを受けて、一番合う組み合わせをこちらで考える。そして「あなたなら、これです」と一案だけを出し、なぜ合うのかを説明します。商品選びまで任せてもらうのが、専門家の仕事です。
住宅営業では、概算の見積もりで契約をいただいていた
住宅の契約前にお見せする見積もりには、まだ確定できない部分があります。地盤改良工事の予算を入れても、実際に何が必要かは地盤調査の結果によります。インテリアにも予算は入っていますが、どのインテリアを選ぶかはまだ決まっていません。
お客様から見れば、概算が残っている状態で大きなお金を払うことになります。家も予算も細部はまだ動く。それでも僕と契約してくださったのは、見積書の項目が多かったからではありません。「この人なら、自分たちの希望に合う形へ進めてくれる」と信頼していただけたからです。
任せてもらうために、条件と未確定部分は正直に伝えます。
契約後に悪い条件を出したり、間取りを大きく変えたり、予算を跳ね上げたりすれば解約になります。未確定の部分があっても、何が決まっていて、何がこれからなのかは伝える。そのうえで、希望に合う家へ進める責任を引き受けます。
「お任せください」が成立するのは、この線を守るからです。説明を減らすことと、不都合な情報を伏せることは全く違います。
コンサルの答えを契約前に作ると、仕事そのものを先に渡してしまう
現在の僕は、クライアントの事業をどう伸ばすか、戦略を考える仕事をしています。具体的な戦略を作ること自体が商品です。当然、その詳細を考えるのは契約後になります。
セールスがうまくいっていない人は、契約前に先に考えてしまいます。「あなたの場合はこうして、この流れで進めればいいですよ」と、契約前の相談で詳しく説明する。すると、「概要は分かったので、まず自分で試してみます」と言われることがあります。
やり方を聞いて自分でもできそうだと思えば、まず自分で試したくなるのは自然です。マーケティングも、分かってしまえばシンプルに見えることがあります。複雑すぎれば、そもそも実行できません。
だから契約前に伝えるのは、僕が何の専門家で、どんな仕事をする人なのかです。契約後に提供する戦略そのものまで、無料で完成させることではありません。相談に必要な説明と、契約後に提供する仕事の境界を守ります。
僕は、商品説明をしないバーベキューで信頼をつくってきた
僕の場合、商談以外の場でも信頼が育っていました。その一つがバーベキューです。
僕のバーベキューに参加した人からは、細かいところまで準備していることや、場の空気をつくるためにいろいろ動いていることを見てもらえます。そこで僕は、商品説明を一切していません。それでも「この人なら間違いないかもしれない」「一度、仕事の話も聞いてみたい」と言ってもらえる流れが生まれてきました。
バーベキューで見える人柄や仕事ぶりは、普段から伝えている本業の専門性と結びついて仕事につながります。会場には僕のサービスを受けたことがある人や、メルマガを読んでいる人もいます。そうした人たちが僕の仕事を紹介してくれることで、参加した人にも「バーベキューが好きな人」だけではないことが伝わります。
必要になったとき、信頼できる専門家が近くにいる。この状態ができていると、細かな商品説明を重ねなくても、相談する相手として思い出してもらえます。僕にとってバーベキューは、売り込みの場ではなく、人柄、仕事ぶり、実際のお客様の声が一緒に伝わる場になっていました。
「お任せください」は、結果の保証ではなく覚悟を示す言葉
「私にお任せください」と口にするとき、実績や結果保証への不安から、言うのが怖くなるかもしれません。僕も、この言葉は短いけれど、慣れていない人にはかなり覚悟が要ると思っています。
僕が言う覚悟は、保証がなくても、この人のために進むと心に決めることです。お客様へ判断を投げ返さず、プロとして勧めるものを言い切ります。
僕にとって「私にお任せください」は、お客様へ決断を促す言葉です。また、自分自身に「私はプロとして仕事をしている」と自覚させる言葉でもあります。話す場面でも、文章で提案するときにも使えます。
次の提案では、説明を足す前に一案を選ぶ
次の提案資料を開いたら、複数の商品やプランを同じ重さで並べていないか見直してみてください。お客様へ選択を返す前に、好み、やりたいこと、予算を聞けているか。その答えから、自分なら何を一番に勧めるのかを決めます。
一案に絞ったら、「この条件を聞いたので、今回はこれを勧めます」と理由を伝えます。必要な条件や未確定部分は隠さない。一方で、契約後に提供する仕事そのものまで先に渡さない。そこまで整理できたら、最後はお客様へ判断を戻さず、「私にお任せください」と伝えます。
手元の提案資料を使ったままでも、勧める一案と理由は先に決められます。次の商談では、説明を一つ増やす前に、「このお客様には何を一番に勧めるか」を一つ決めるところから始めてみてください。
高額商品の提案と販売導線の全体は、高額商品を売るには?売り込まずに選ばれる販売導線の作り方でも解説しています。

